[勝訴]大東市互助会 – 大東市互助会控訴 – 平成20年 [高裁] (行コ) 第26号

大東市互助会
大東市互助会控訴

平成20年 [高裁] (行コ) 第26号

判決 2008年10月30日 勝訴

平成20年10月30日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成20年(行コ)第26号 損害賠償等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成17年(行ウ)第89号)

判    決

大阪府大東市泉町2丁目7番18号
控訴人     光城 敏雄
上記訴訟代理人弁護士  井上 善雄
同       豊島 達哉
同       西浦 克明
大阪府大東市谷川1丁目1番1号
被控訴人    大東市長  岡本 日出士
大阪府大東市灰塚4丁目1番1号
被控訴人    大東市水道事業管理者
多田 由一
上記被控訴人ら訴訟代理人弁護士
寺内 則雄
同        高橋 英
大阪市中央区大手前3丁目2番12号 大阪府庁別館内
被控訴人ら補助参加人  社団法人大阪府市町村職員互助会
上記代表者理事     岩室 敏和
上記訴訟代理人弁護士  比嘉 廉丈
同           渋谷 麻衣子

     主    文

1 原判決を次のとおり変更する。

2 控訴人の本件請求のうち,補給金の支払の差止め請求に係る訴えをいずれも却下する。

3 被控訴人大東市長岡本日出士は,被控訴人ら補助参加人に対し,1億0031万0295円を大東市に支払うよう請求せよ。

4 被控訴人大東市水道事業管理者多田由一は,被控訴人ら補助参加人に対し,475万8720円を大東市に支払うよう請求せよ。

5 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

6 訴訟費用は第1,2審を通じて,これを10分し,その5を被控訴人大東市長岡本日出士の,その1を被控訴人大東市水道事業管理者多田由一の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

     事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人大東市長岡本日出士(以下「被控訴人市長」という。)は,被控訴人ら補助参加人(以下「互助会」という。)に対し,1億0078万3783円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

3 被控訴人市長は,互助会に対し,5649万8145円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

4 被控訴人大東市水道事業管理者多田由一(以下「被控訴人水道管理者」という。)は,互助会に対し,477万1763円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

5 被控訴人水道管理者は,互助会に対し,258万7095円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

6 被控訴人らは,互助会に対し,平成18年度以降,補給金の支払をしてはならない。

第2 事案の概要

本件は,大東市などが,大阪府下の全市町村(大阪市を除く。)の職員等を会員とする厚生制度の実施を目的とする互助会に補給金を支出した件について,大東市の住民である控訴人が被控訴人らに対し,互助会の実施した事業が違法(例えばヤミ退職金の支給)であると主張して,平成16年度及び平成17年度の違法支出分等の不当利得返還請求又は損害賠償請求を互助会に対してするよう求め,また,本件訴訟提起後である平成18年度分以降の互助会への支出の差止めを求めた事案(住民訴訟)である。

原審は,本件訴えのうち本件訴訟提起後原審口頭弁論終結時までに既に支出された補給金の差止めを求める部分を,訴えの利益を欠く不適法なものとして却下し,その余の控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。

1 前提事実(認定根拠の掲記がない事実は争いがない。)
(1)当事者
ア 控訴人は大東市の住民である。
イ 被控訴人市長は,大東市の執行機関であり,損害賠償請求金又は不当利得返還金の支払を請求する権限を有する行政庁である。
被控訴人水道管理者は,大東市の営む水道事業の管理者であり,当該業務の執行に閲し,大東市を代表する権限を有する行政庁である。
(2)互助会
ア 互助会は,大阪市を除く大阪府下の全市町村及び一部事務組合等の常勤職員等を会員とし,会員の福利増進,生活の向上を期し,もって執務の公正,能率化を増進し,進んで地方自治の本旨の実現に協力することを目的とする社団法人である。(丙2,弁論の全趣旨)
イ 互助会は,会員を対象として,給付事業,貸付事業,福利厚生事業(それぞれの事業の概要は,以下のとおりである。),その他,目的達成のために必要な事業及びこれらに付帯する事業を営んでいる。(甲6,丙2,4,弁論の全趣旨)

(ア)の給付事業(乙6)
a 医療補助(入院費補助,介護補助金,人間ドック補助,休業補助)
b 見舞金(障害見舞金,災害見舞金)
c 弔慰金(死亡弔慰金,親族死亡弔慰金)
d 準備金(結婚準備金,出産準備金)
e 祝金(入学祝金,進学祝金,成年祝金,在会慰労金,結婚記念祝金)
f 退会給付(後に設けられた退会餞別金を含む。ただし,これらについては後記のとおり廃止された。)

(イ) 貸付事業
a 生活資金
b 住宅資金
c 進学資金
d 特別資金

(ウ) 福利厚生事業
a 互助会館「なにわ」の運営
b 宿泊利用補助(指定契約施設の利用)
c 広報誌「ふれあい」等の発行
d 銀婚記念品,ギフトカードの贈呈
e 買物優待券の交付

(エ)その他,目的達成のため必要な事業及び前記各項目に付帯する事業

(3)大東市の厚生制度
大東市は,地方公務員法42条所定の厚生制度の実施について大東市職員の厚生制度に関する条例(平成7年3月28日条例第12号。乙1)を制定し,その中で,職員の厚生制度の実施は,互助会等に行わせることができること(3条),互助会に対し,互助会の定款に定める補給金を交付することができる旨を定め(4条),これに基づき,厚生制度の実施を互助会に委託している。(乙1,弁論の全趣旨)

(4)補給金の支給(財務会計行為)
ア 被控訴人市長は,互助会に対し,大東市の市長部局の職員(大東市職員のうち,水道事業の企業職員を除いた者をいう。)のために,平成16年4月以降,本件口頭弁論終結日(平成20年7月29日)までに,平成1 6年4月分から平成20年7月分までの補給金を支出した。このうち,平成16年度分の支出額は1億0078万3783円,平成17年度分は5649万8145円であった。(甲1の2,弁論の全趣旨)

イ 被控訴人水道管理者は,互助会に対し,大東市水道事業の企業職員のために,平成16年4月以降,本件口頭弁論終結日(平成20年7月29 日)までに,平成16年4月分から平成20年7月分までの補給金を支出した(以下,平成16年4月以降の補給金について,支出権者がいずれであるかを問わず「本件補給金」と総称する。)。このうち,平成16年度 分の支出額は477万1763円,平成17年度分の支出額は258万7095円であった。(甲1の3,弁論の全趣旨)

ウ ちなみに,平成18年4月1日の「社団法人大阪府市町村職員互助会会費・補給金規程」改定前は,補給金の金額は,平成16年4月1日から平成17年3月31日までは会員の給料月額の1000分の23,同年4月1日から平成18年3月31日までは同じく1000分の21であったのに対し,会員が互助会に支払う会費は給料月額の1000分の/14であり,補給金と会費の負担割合は1.64対1ないし1.5対1となっていた。  (甲5,7,丙3の1・2,丙5の1ないし4,弁論の全趣旨)

(5)互助会が大東市の職員に関して支出した給付金の支出額及び件数は,平成 16年度が別紙1の1,平成17年度が別 紙1の2のとおりである。(弁論の全趣旨)

(6)監査請求
控訴人は,平成17年3月24日,大東市監査委員に対し,本件補給金のうち平成16年度及び平成17年度の支出が違法であるとして,当該支出の差止め,当該支出によって大東市が被った損害を当該職員及び互助会に対して請求することなどを求める監査請求をした。しかし,大東市監査委員は,同年5月12日,上記監査請求は条例自体の違法性について監査を求めるものであるとして,監査請求を棄却し,そのころ,その旨を控訴人に通 知した。  (甲1の1ないし4,甲2)

(7)本件訴えの提起
控訴人は,平成17年6月8日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)

2 争点
(1)本案前の争点
ア 差止請求の適法性
イ 出訴期間の遵守
(2)本案の争点
ア 本件補給金の支出の違法性
イ 精算義務の不履行の違法性
ウ 大東市の損失又は損害
工 弁済及び弁済充当
3  争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)ア(差止請求の適法性)について
原判決の「事実及び理由」の第2の2(2つあるうちの後のもの。以下同じ。)(1)(同6頁23行目から同7頁1行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(2)争点(1)イ(出訴期間の遵守)について
原判決の7貢9行目の「記載がなかったが,」を「記載がなく,」と改めるほかは,同「事実及び理由」の第2の2(2)(同7頁3行目から同12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(3)争点(2)ア(本件禰給金の支出の違法性)について
当審における当事者の主張を次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の2(3)(同7頁14行目から同10頁1行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人)
地方公務員法4条2項は,「この法律の規定は,法律に特別の定めがある場合を除く外,特別 職に属する地方公務員には適用しない。」と明記しているから,特別職には同法42条の適用はない。したがって,市長等の特別 職  も互助会会員としていることは違法である。
(被控訴人ら)
地方公務員法4条2項が「適用しない」というのは,その文言どおり同法の適用が除外されることを意味するにすぎず,同法に基づいて実施される事  業の対象とすることを禁止する趣旨まで含むものではない。
(4)争点(2)イ(精算義務の不履行の違法性)について
当審における当事者の主張を次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の2(4)(同10頁3行目ないし同12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人)
互助会は,大阪市を除く大阪府下の全市町村及び一部事務組合等の常勤職員等を会員とし,会員の福利増進,生活向上等を図ることを目的とする社団 法人であり,互助会の目的からして互助会は大東市等から委託された事業のみを行っているものではない。互助会の社団法人大阪府市町村職員互助会定款(以下「本件定款」という。)や社団法人大阪府市町村職員互助会給付規程(以下「本件給付規程」という。)等に各給付事業についての規定があったとしても,それによって,大東市等からの補給金を各給付事業に使用することを示しているとはいえない。また,互助会は,大東市やその他の市町村からの補給金をどのような事業にいくら使用するか,全く明らかにしていなかったのであり,本件定款や本件給付規程の一般 的な定めがあるからといっ  て,互助会が大東市からの補給金をどのように使っているか,あるいは使おうとしているかを大東市は全く知り得ない。
仮に大東市長が,違法な給付事業に給付金が使用されることを交付時に知つていたとしても,地方自治体が行う契約は適法なものでなければならず,違法使用部分は委託契約の範囲外というべきであって,精算・返還義務を負う。
(被控訴人ら)
互助会は,補給金の使途について,毎年の決算書の公表と事業内容についての補給金の割り当ての通 知によって明らかにしている。
(互助会)
互助会の行ってきた事業は,地方公務員法42条に基づき各市町村が行うべき厚生事業を一括して委託を受けて行っているものであり,同法は,同法43条に基づく共済事業以外の厚生事業を行うことを禁止していない。
(5)争点(2)ウ(大東市の損失又は損害)について
(控訴人)
前記のとおり,被控訴人市長は,互助会に対し,平成16年度は1億0078万3783円,平成17年度は5649万8145円の補給金を支出しており,かつこれは互助会の福利厚生事業の範囲を逸脱した活動に充てられた違法支出であるから,大東市は同額の損失ないし損害を被ったというべきである。
同様に,被控訴人水道管理者は,互助会に対し,平成16年度は477万1763円,平成17年度は258万7095円の補給金を支出しており,大東市は同額の損失ないし損害を被ったというべきである。
(被控訴人ら)
争う。
(6)争点(2)ェ(弁済及び弁済充当)について
次のとおり当審における当事者等の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の2(5)(同10頁14行目から同11頁25行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(互助会)
上記清算金返還時においては,退会給付金の支給が不当利得に当たるか否かを裁判上争っていた時期であり,不当利得に当たると明確に認めることができないので,互助会の担当者は,「この100億円につきましては,高裁判決で互助会の不当利得として吹田市へ支払いせよという7200万円を,全府下市町村に焼き直した場合の概ね5年分相当の額となっております。」と理事会において説明した。この説明は,仮に万一,裁判上,退会給付金の支給が不当利得に当たると認められた場合には,当該不当利得に返還金を充当する意味を含んだものである。そして,評議員会(各市町村長他が構成員である。)においても,評議員の「100億円については吹田訴訟の大阪高裁での不当利得と認定されてしまった,その分の全市町村にならしてしかも5年分という相当額に計算した額が100億円程度と理解してますので。」との発言があるとおり,返還金を受領する側もそのことを理解し,了解していたといえる。なお,丙7の通 知においても「清算金(返還金)」と明示してその意を示している。
(被控訴人ら及び互助会)
大東市及び大東市水道事業と互助会は,平成17年12月15日,同年1 1月分以前の互助会に対する補給金につき不当利得返還債務が生じる場合は, 互助会が同年12月15日付で返還した金員を,同年11月分以前の補給金 から過去に遡って生じる不当利得返還債務に順次充当する旨合意した。
仮に上記充当合意が認められないとしても,大東市及び大東市水道事業と 互助会は,同年12月15日付けの充当合意と同様の条件及び内容で,清算金(返還金)を不当利得返還債務に充当することについて,平成20年6月 20日をもって合意した。
したがって,本件については,弁済充当の合意が適法かつ有効に成立している。
(被控訴人ら)
互助会からの返還金1億9202万8410円について,大東市では1億 8067万1790円を一般 会計・諸収入・雑入(人事)として,同市水道 事業は残りの862万0169円を雑収入として,それぞれ平成17年12 月15日付で収入済みとして会計処理している(なお,大東市分の各会計及 び関係諸機関への内部的な配分に当た?ては,互助会が各市町村等に按分し た計算方法を参考として,平成14年度から平成16年度の3年間の事業主 負担分の総額の構成比で按分して配分している。)が,その入金処理は,その返還時点において,本件訴訟において将来互助会に対し不当利得返還請求 債権ないし損害賠償請求債権が発生した場合,その債権の弁済に充てるため に行われたことが明らかである。
このような事実関係からすれば,大東市及び同市水道事業は,互助会からの返還金を受領するに当たり,その趣旨を十分理解していたのであるから, 平成17年12月15日の時点で本件弁済充当の合意が認められるべきであ る。
また,本件弁済充当の合意は,互助会による債務の弁済の充当を認めるもので,当該弁済により互助会のすべての債務が消滅せず,大東市及び同市水 道事業が互助会に対し残債権を有することとなる場合は,これを放棄することまで合意するものではないから,地方自治法96条1項5号所定の契約締 結や同10号所定の権利放棄に当たるものではなく,議会の議決を経るべき 事項ではない。
(控訴人)
およそ,弁済充当の合意が成立したというためには,誰と誰の間で,いつ,いかなる債務に対し,いくらを充当したのか明確でなければならない。ところが,本件弁済充当をしたという返還金は,極めて曖昧なものであり,それ 自体,上記の日時も含めて特定された債務への弁済充当の合意ではない。理事会や評議会での「概ね」「ならして5年分」といった金額は,互助会の推 計の一つではあっても,それを全市町村,そして本件では大東市が支出して いた期間の特定金額がいくらで,そのうちどれだけが他の市町村との関係で 公平公正な額として返還を受けたといい得るかについて,説明がなく,弁済 充当が客観的に存在したとはいえない。  返還金を「清算金」と明示したものがあっても,これも何年度の大東市の 支出金の,どの分の清算金かが不明確であるから,同じ理である。
また,地方公共団体の議会は,地方公共団体が契約を締結すること,権利を放棄することにつき議決をしなければならない(地方自治法96条1項5 号,10号)。大東市は不当利得返還請求権を互助会に対して有していると ころ,この請求債権が弁済充当合意によって消滅するのであるから,この行 為は権利放棄に等しく,議会の承認を要するというべきである。
また,被控訴人ら及び互助会は,原審口頭弁論期日において弁済充当の合 意をした旨主張する。しかし,本件の互助会からの返還金を巡る民事的な債 権債務の関係は,被控訴人らと互助会ではなく,大東市と互助会,大東市水道事業と互助会である。被控訴人らは,本訴の当事者で,本件住民訴訟に定められた法令に基づき被告となって応訴し,その訴訟行為について訴訟代理人として弁護士である被控訴人代理人を選任し,被控訴人代理人もその範囲内で訴訟代理権を与えられているのである。市長が大東市を代表して,与えられた処分権限に基づき自ら弁済充当という契約行為をすることなく,一訴訟代理人である寺内弁護士に丸投げして処分させるなど,市の権限規定,議会への承認・報告手続も踏まえていないことからしてもあり得ない。互助会と大東市ないし大東市水道事業間の民事債権債務関係の充当関係を形成する委任権限等,被控訴人ら及び互助会側の双方代理人とも与えられた事実はない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(差止請求の適法性)について
(1)前記第2の1(4)のとおり,本件口頭弁論終結日(平成20年7月29日)において,本件補給金は,平成18年4月分から平成20年7月分まで既に支出されたことが認められる。
したがって,上記期間に係る本件補給金の支出の差止めを求める訴えは,訴えの利益を欠き,不適法として却下を免れない。
(2)また,職権で判断するに,住民訴訟を適法に提起するためには,住民監査請求を経ることが要件とされる(地方自治法242条の2第1項)。しかし,前記第2の1(6)のとおり,控訴人は,本件補給金のうち平成16年度及び平成17年度の支出分については住民監査請求を経ているが,平成18年度以降の支出分については同監査請求を経ていない。
そうすると,本件補給金のうち平成20年8月分以降の支出の差止めを求める訴えも不適法であり,却下を免れない。

2 争点(1)イ(出訴期間の遵守)について
(1)控訴人は,本件訴状において,本件補給金の支出が違法であると主張して,支出済みの部分に相当する不当利得の返還等を求めるとともに,将来の補給金の支出の差止めを求めていたが,平成17年10月27日の原審第3回口頭弁論期日において,互助会が,本件補給金のうち地方公務員法42条に適合する厚生制度の事業費及び事務費に充てた部分を差し引き,その残額を精算,返金すべきであったのにこれを怠ったから,本件補給金に相当する損害賠償請求権(民法415条又は709条)を有すると主張した。そして,この新たな主張に基づく請求が訴えの追加的変更に当たるとすれば,同請求は,出訴期間(監査結果 が通知された同年5月12日ころから30日間。地方自治法242条の2第2項1号)が経過した後になされたことになる。
そこで,控訴人が,本件補給金の支出を違法とする主張に加え,精算義務の不履行を違法とする主張を追加したことが,訴えの追加的変更(地方自治法242条の2第11項,行政事件訴訟法43条,19条2項,民事訴訟法 143条)に該当するか否かを検討する。
(2)地方自治法242条の2第1項4号前段の請求に係る訴訟物は,請求の主体(執行機関等),請求の相手方(当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方),請求の内容(請求及び請求原因)によって特定される。
そして,上記(1)の両請求を見るに,従前の請求(本件補給金の支出が違法であることによって発生した不当利得返還請求権の行使を求めるもの)と新たな請求(精算義務の不履行によって発生した損害賠償請求権(民法415条又は民法709条)の行使を求めるもの)は,請求金額及び請求の相手方こそ同一であるものの,請求原因が異なり,実体法上の請求権も異なるから,両請求の訴訟物は同_ではないというべきである。
したがって,控訴人が,平成17年10月27日の原審第3回口頭弁論において,本件補給金の支出を違法とする主張に加え,精算義務の不履行を違法とする主張を追加したことは,単なる攻撃防禦方法の追加ではなく,訴えの追加的変更に該当する。そして,訴えの追加的変更の法的性質は,変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならないから,変更後の訴えに関する出訴期間(監査結果 通知から30日以内。地方自治法242条の2第2項1号)が遵守されているか否かは,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情がある場合を除き,訴えの変更の時を基準として,これを決しなければならないと解される。
(3)そこで,上記特段の事情の有無について検討するに,上記両請求は,いずれも,互助会の違法な事業に大東市から支給された補給金が使われているという基本的な事実関係に基づく請求という点で共通 しており,請求金額及び  請求の相手方も同じである。
また,控訴人が新たな請求を追加した経緯を見ると,((1))控訴人らは,本件訴状において,大東市と互助会との間における委託契約の有無や本件補給金が補助金の性格を持つものか否かが明らかでないことを前提として,控訴人が把握している事実関係に基づき,互助会による補給金の使途が違法であるから,補給金の支出も違法であるとして,従前の請求をしていたこと,((2))控訴人は,平成17年9月6日の原審第2回口頭弁論期日において,裁判所から,互助会に対する金員請求の法的根拠が明確でないとして,その補充主張を求められたこと,((3))互助会は,平成17年10月27日の原審第3回口頭弁論期日において,大東市と互助会との間には委託契約があり,大東市には互助会に対し,同契約に基づき補給金を支給する法的義務があるから,補給金は補助金とは法的性格が異なると主張したこと,((4))控訴人は,同口頭弁論期日において,互助会の上記主張も踏まえ,大東市と互助会との間に委託契約があるとしても,それは適法な事業の委託を前提とする預託金であるから,互助会が,違法な事業を実施し,その精算の履行もしない場合には,大東市との関係で債務不履行ないし不法行為になると主張し,新たな請求を追加したことが認められる(弁論の全趣旨)。すなわち,控訴人の新たな請求は,訴え提起時点では明らかでなかった上記委託契約の存在が互助会から明確に主張されたことを受け,それによって明らかとなった補給金の法的性格に即した法律構成として,直ちに追加的にされたものであり,従前の請求と請求の基礎を異にするものではない。
以上の点を併せ考慮すると,控訴人が,本件補給金の支出を違法とする主張に基づく従前の請求に加え,上記委託契約に基づく精算義務の不履行を違法とする主張に基づく新しい請求に係る訴えを追加したことについては,前記特段の事情があるということができるから,前記訴えの追加的変更に関し,出訴期間不遵守の違法はない。

3 争点(2)ア(本件補給金の支出の違法性)について
(1)ア 地方公務員法24条6項,25条1項,地方自治法204条3項及び同法204条の2は,職員の給与は,条例で定めなければならず,これに基づかずには,いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならないとして,いわゆる給与条例主義の原則を定める。その趣旨は,地方公共団体の職員に対して給与を受け取ることを権利として保障する一方,人件費は財政の根幹を占める重要事項であるから,職員の給与は,住民の代表者で構成する議会が,住民自治に基づき,自ら公明正大に定めることとして,お手盛りを防止し,適正な額の支給をせんとするものであって,その基礎は財政における民主主義である。
他方,地方公務員法42条は,「地方公共団体は,職員の保健,元気回復その他厚生に関する事項について計画を樹立し,これを実施しなければならない」として,地方公共団体が,元気回復措置その他の福利厚生事業について計画を樹立し,実施すべきことを定めているところ,これは条例事項とされていないので,任命権者である地方公共団体の長がその裁量 によって行うことができることになっている。しかし,上記のとおり,給与条例主義は財政民主主義を基礎とする重要な原則であるから,その趣旨に鑑みれば,福利厚生事業の計画・実施は,地方公務員法24条6項,25条1項,地方自治法204条3項及び同法204条の2と調和的に行われなければならず,福利厚生事業の名の下に,給与条例主義を潜脱することは許されない。そして,この理は,地方公共団体が自ら福利厚生事業を実施する場合のみならず,外部団体に実施を委託する場合も異ならないというべきである。
ところで,前記第2の1(2)ないし(4)のとおり,互助会は,大東市を含む大阪府下の市町村等の常勤職員等を会員とし,これらの者を対象として, 貸付事業,福利厚生事業の他,給付事業の一環として会員に対する諸々の給付を行い,これらの事業の経費に充てるため,会員から一定の会費を徴収するほか,大東市を含む大阪府下の市町村等から補給金の支給を受けていたから,互助会から会員に対して支給された給付が大東市を含む大阪府下の市町村等から支出された補給金を原資の一部としていたことは明らかである。したがって,本件補給金を原資の一部として会員に支給された給付が,実質的に給与や退職手当に該当するならば,本件補給金の支出は給与条例主義を潜脱するものとして違法と評価すべきこととなる。
そこで,互助会が給付事業として会員に対して行う諸給付が,実質的に給与や退職手当に該当するか否かを,以下,個別 に検討する。
イ(ア) 証拠(各項掲記)及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。
a 互助会は,給付事業の_つとして,会員が退職等によって退会する場合,同会員に対し,退会給付金を(昭和55年3月時点で在会6か月以上の会員に対しては生業資金(生業資金付加金を含む。)を退会給付金と併せて)支給していた。上記退会給付金の金額は,会費算定の基礎となった給料月額の30分の1相当額に,在会年数(ただし,昭和55年3月以前に入会した者については同年4月以降の在会年数)に応じて定められた給付日数(具体的には別 紙2の退会給付率表 のとおりである。なお,同表中,現行欄は平成7年4月1日から平成 11年3月31日までのもの,変更後欄は同年4月1日以降に適用さ れるものである。)を乗じて得た金額とされていた。(甲6,丙4, 9)
b  その後,平成16年3月31日で退会給付金は廃止され,同年4月 1日から,会員が本件定款7条の規定(死亡,退職等により互助会会 員たる資格を喪失する旨定めている。)に該当し,会員たる資格を喪 失したときは,退職等の時点での給与月額の30分の1に同日以降の 在会年数に応じた日数(1年につき5日)を乗じて算出した額の退会 餞別金を支給する旨改正された。ただし,当分の間,退職等の時点で の給与月額の30分の1に平成16年3月31日時点での在会年数に 応じた日数(具体的には別 紙3のとおりである。)を乗じて算出した 額の退会給付金を支給する旨の経過措置が設けられていた(以下,退 会給付金,生業資金,退会餞別金の給付を合わせて「退会給付」と総 称し,退会給付に係る金員を「退会給付金」という。)。(丙2, 4)
c  上記計算に基づいて支払われる退会給付金は,最高565万円となる。互助会は,平成16年度で,会員たる資格を喪失した約3600 人に,1人当たり平均約380万円,計137億9000万円の退会 給付金を支給した。
また,互助会は,平成17年度も3800人分,144億4000 万円の退会給付金の支給を予定していた。 (丙16)
d  互助会は,平成17年11月25日,同月30日付けの退会者への 退会給付金の支給をもって退会給付金制度を廃止した。(丙5の1な いし4,丙6の1ないし5,丙7の1・2)
これに代わって,互助会は,会員の退職後の生活設計を支援する目的で,社団法人大阪府市町村職員互助会会員会費事業規程を制定して,ライフプラン支援金という新たな制度を創設し,平成18年4月1日から開始した。これは,会員が支払う会費のうち給料月額の1000分の3に相当する額を基金とし,入会の月から(在会者については,平成18年4月から)退会の月までの期間に積み立てられた上記基金とその年度に定めた率(平成18年度は年0.1パーセント)を付加した額を退会時に給付するというものである。(丙13,14の1ないし3,丙15の1ないし4)
(イ)  上記のとおり,退会給付は,互助会の会員資格を喪失した者に対し,同時点での給与月額の30分の1に在会年数に応じて定められた日数を乗じて算出した額の金員を支給するものである。そして,互助会は,本件定款において,大阪府下の市町村及び一部事務組合等の常勤職員等であって,入会手続をした者を会員とし(4条),死亡,退職,失職,免職等の場合に会員資格を喪失する(7条)と規定している(丙2)から, 互助会の会員資格と職員の身分は原則として連動しているということができる。そうすると,退会給付は,原則として職員の身分を喪失したときに,その時点での給与月額及び職員としての勤続年数(互助会の会員資格と職員の身分が原則として連動する以上互助会の在会年数と職員としての勤続年数は原則として一致することとなる。)に応じて算出された金員を支給する制度と位 置付けられるものである。
また,各種給付事業の中で,退会給付は,支給金額が突出して多額であり,給付総額のうちの割合でも概ね2分の1ないし3分の2を占めていること(別 紙1の1・2参照),前記第2の1(4)ウのとおり補給金と会費の負担割合が1.64対1ないし1.5対1であったことに照らすと,市町村等からの補給金のうち相当割合が退会給付として支出されており,かつ,このことを市町村等も補給金支出に当たって前提としていたものというべきである(これは,退会給付の廃止に伴い,平成18年4月から補給金の支出割合が1000分の7と大幅に減ったこと(丙3の1・2,丙5の1ないし4)からも窺えるところである。)。
したがって,以上の事実に,退会給付金の使途を限定する規定が存在しないこと,前記(ア)cのとおり平成16年度における1人当たりの退会給付金の平均が約380万円にも上ることを併せ考慮すると,退会給付は,実質的には退職手当に該当し,市町村等の補給金をこの支出に充てることは給与条例主義を潜脱するものであって,違法といわざるを得ない。
ウ 次に,証拠(甲6,丙4)によると,在会慰労金は,会員が在会10年に達したとき2万円,在会20年に達したとき5万円,在会30年に達したとき10万円を互助会から会員に給付するものであると認められる。    しかし,互助会の会員資格と職員の身分が原則として連動していることは前記イのとおりであるから,在会慰労金も,原則として職員の勤続年数に応じて所定の額の金員を給付する制度ということができる。
もっとも,職員が長期間にわたって勤務を継続したことに対して,その価値を認めて金員を給付することは,他の職員の励みになるから,在会慰労金が社会通 念上儀礼の範囲内にとどまる少額のものであれば,これは表 彰制度の一環ないし福利厚生事業として許容する余地もあり得る。しかし, 前記給与条例主義の趣旨に鑑みれば,許容される額は厳格に解すべきであつて,せいぜい数千円ないし1万円程度が限度であるというべきである。してみると,本件における在会慰労金の金額は上記のとおりであって,上記限度を超えて高額なものであるから,これを社会通 念上儀礼の範囲内として許されるものと見ることはできない。
したがって,在会慰労金も,実質的には給与に該当し,市町村等の補給金をこの支出に充てることは給与条例主義を潜脱するものであって,違法といわざるを得ない。
エ 互助会が実施するその他の給付事業等で,給与条例主義との関係で問題となるものは見当たらない。
(2)ア 控訴人は,互助会の給付事業のうち,入院費補助金,出産準備金,死亡弔慰金,親族死亡弔慰金,休業補助金等は,いずれも地方公務員等共済組合法に基づく補助金等の上乗せである,あるいは,共済組合や健康保険組合,大東市職員互助会(乙2,3,6)の実施する事業と重複しているから,厚生制度として適切かつ公正な範囲を逸脱するものとして違法であるなどと主張する。
イ 地方公務員法が,41条ないし45条(但し,44条は削除されている。)で職員の福祉の保護を規定したのは,職員の福祉を向上させて職員の生活を安定させ,職員が安んじて公務に専念することが,地方公務員法の究極目的の1つである能率的な公務の推進に資するとの趣旨に基づくものである。
このうち,同法43条は,職員又はその被扶養者の病気,負傷等,職員の退職等について適切な給付を行うための相互救済を目的とする共済制度の実施を義務付け,同法45条は,職員が公務により死亡,負傷等した場合の,その者,被扶養者,遺族に対する公務災害補償を義務付けている。そして,同法42条は,これらの制度に加えて,地方公共団体に対し,職員の保健,元気回復その他厚生に関する事項について計画を樹立し,これを実施する義務を課している。したがって,当該地方公共団体としては,上記共済制度及び公務災害補償制度の存在を前提とした上で,更に当該地方公共団体の職員の人数やその厚生の現状,職員の要望,地域の実情に応じ,適切かつ公正な範囲を超えない限り(同法41条),その裁量 により職員の厚生制度を実現することができるのであり,その中で地方公務員共 済組合等の事業と互助会の事業に内容的に重複するものがあったとしても,必ずしも違法とはいえないというべきである。
そこで,控訴人が指摘する各給付ないし事業ごとに,上記のような適切かつ公正な範囲を超えるものであるか否かを検討する。
ウ(ア) 証拠(甲6,丙4)及び弁論の全趣旨によると,互助会は,本件給付規程において,((1))会員及び扶養親族等が病気等で病院等に入院したときは,入院1日当たり会員につき2000円,扶養親族等につき1000円を支給する入院費補助金(本件給付規程7条),((2))会員が心身の故障のため職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えられないため退職を余儀なくされた場合は60万円,職務に従事することはできるが,身体が旧に復することができない場合,又は顔に傷痕を残す場合は20万円を支給する障害見舞金(同11条),((3))会員が公務外の病気等により引き続き労務に服することができず休業し,給与月額が100分の80以下に減額されたときは,その額との差額を3年間支給する休業補助金(同9条),((4))会員が水・風・地震・火災等の非常災害によって被害を受けたときに,その被災程度に応じて一定金額内の額を支給する災害見舞金(同13条),((5))会員死亡につき50万円を支給する死亡弔慰金(同15条),((6))会員の親族死亡につき続柄に応じ最高20万円を支給する親族死亡弔慰金(同16条),((7))会員,会員の配偶者等が出産する場合に5万円を支給する出産準備金(同18条)を規定し,それぞれその給付事業を実施していることが認められる。
(イ) そして,上記互助会による給付事業のうち,入院費補助金,障害見舞金については,地方公務員等共済組合法(健康保険法)並びに大東市職員互助会会則(乙2)及び大東市職員互助会給付規程(乙3。以下,乙2,3を「大東市職員互助会規程」と総称する。)に,これと同趣旨の給付についての規定はない。控訴人は,地方公務員等共済組合法所定の給付(甲9,10,11の1・2参照)のうち,入院費補助金については入院時食事療養費及び入院時生活療養費が,また,障害見舞金については障害共済年金及び障害一時金がそれぞれ重複する旨主張する(原審控訴人平成19年9月25日付準備書面 )が,弁論の全趣旨によると,給付の対象ないし内容が同一であるとはいい難い。
(ウ) 次に,休業補助金と出産準備金について検討するに,休業補助金は,地方公務員等共済組合法68条1項に規定する傷病手当金(職員が公務外の病気等により勤務に服することができない場合に,1日につき給料日額の3分の2に相当する金額に政令で定める数値を乗じて得た額に相当する金額を原則として1年6か月間支給されるもの)と同趣旨の給付金であり(なお,休業補助金は,大東市職員互助会規程所定の病気見舞金とは趣旨を異にするものである。),また,出産準備金は,地方公務員等共済組合法63条1項の出産費ないし家族出産費と同趣旨の給付金であり(なお,出産準備金は,大東市職員互助会規程所定の出産祝金とは趣旨を異にするものである。),いずれも共済制度や健康保険制度に基づく上記各給付金をより充実させる内容となっている。しかし,上記のとおり,職員の病気や障害等に当たり補助を行うことは,厚生制度としても不合理なものではないこと,休業補助金については,傷病手当金等の受給を受けた場合には,その額を控除して給付される上(丙4。本件給付規程9条2項),その金額や給付期間も不合理とはいえないこと,出産準備金の金額も,その給付事由に照らし,合理的な金額を超えているとはいえないことなどを併せ考慮すると,互助会に休業補助金や出産準備金の給付事業を委託することが,厚生制度として適切かつ公正な範囲を超えるものとまではいえず,事業内容が重複していても必ずしも違法とはいえない。
(エ) 同様に,死亡弔慰金及び親族死亡弔慰金並びに災害見舞金についても,地方公務員等共済組合法及び大東市職員互助会規程で同内容の給付が規定されている(なお,弁論の全趣旨によると,大東市職員互助会では, 死亡弔慰金,災害見舞金,人間ドック補助金以外の事業は,平成18年3月31日付ですべて廃止していることが認められる。)ものの,職員又は親族の死亡,災害による被災に当たり補助を行うことは,共済制度の役割であると同時に,職員の保健や元気回復を典型とする厚生制度と しても不合理なものとはいえず,当該地方公共団体の実情や職員の要望 に応じて,厚生制度としても定め得ると解される。そして,これらの各給付金の総額が上記各給付事由.に照らし,合理的な金額を超えていると まではいえないことも併せて考えれば,互助会にこれらの給付事業を委託することが,厚生制度として適切かつ妥当な範囲を超えるものとはいえず,事業内容が重複していても必ずしも違法とはいえない。
(3)ア 控訴人は,互助会の実施する給付事業のうち,人間ドック補助金,結婚準備金,成年祝金,入学祝金,進学祝金,結婚記念祝金は,地方公務員法42条の厚生制度には該当しないと主張する。
イ 証拠(甲6,丙4)及び弁論の全趣旨によれば,互助会は,本件給付規程において,((1))会員又は会員の扶養親族が人間ドックを利用した場合,会員については利用者基本負担額の100分の75,会員の扶養親族については同100分の50に相当する額(ただし,会員については1万円,扶養親族については8000円を上限とする。)を支給する人間ドック補助金(本件給付規程8条),((2))会員が結婚するときに10万円を支給する結婚準備金’(同17条),((3))会員及び会員の実・養子又は扶養親族が18歳に達したときに6万円を支給する成年祝金(同19条の3),((4))会員や会員の子,扶養親族等が入学し,又は進学したときに最高6万円を支給する入学祝金,進学祝金(同19条,19条の2),((5))会員が結婚後15年,25年を迎えたときに最高5万円を支給する結婚記念祝金(同21条)を規定し,その旨の給付を行っていることが認められる。
ウ そこで検討するに,人間ドックの受診を奨励することが職員の保健につながることは明らかであるし,上記その余の給付についても,職員又はその家族の私生活の節目において,それを祝して金員を交付することには,職員の元気回復に資する側面 もあり,その額も上記程度のものであることからすれば,職員の保健や元気回復を典型とする厚生制度として上記給付をすることも不合理とはいえず,互助会にこれらの給付事業を委託することが適切かつ公正な範囲を超えるものとはいえない(なお,大東市職員互助会規程では,互助会の上記給付と同一内容の給付が定められているが, 前記(2)ウ(功と同様の理由により,互助会の上記給付を違法とは認め難いものである。)。
(4)控訴人は,貸付事業を厚生制度として位置付けるのは困難であると主張する。
前記第2の1(2)イ仰の事実,甲6及び弁論の全趣旨によると,互助会は,所定の限度額内で,生活資金,住宅資金,進学資金等の貸付事業をしていることが認められるが,職員が生活資金等を必要としたときに一時的に貸付け等を行うことは,職員の福利厚生の制度として不合理なものではないから,これらの事業を互助会に委託することが適切かつ公正な範囲を超えるものとすることはできない。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(5)次に,弁論の全趣旨によれば,大東市の市長等の特別職の職員も互助会の会員になっていることが認められるところ,控訴人は,特別 職の職員には地方公務員法42条の適用がないので,特別職の職員に関する給付のために本件補給金を支出することができないと主張する。
しかし,((1))福利厚生を図る必要性が一般職の職員と特別職の職員とで本質 ・的に異なるとは解されないこと,((2))地方公務員法43条の規定を受けた地方 公務員等共済組合法(2条1項1号),地方公務員法45条の規定を受けた地方公務員災害補償法(2条1項1号)は,いずれも一般 職,特別職を問わずに常時勤務を要する地方公務員を対象としていること,((3))地方公務員法4条2項も特別 職に対する厚生制度の実施を禁止する趣旨とまで直ちに解することはできないことに鑑みると,互助会の会員に特別 職の職員が含まれていることによって,互助会に対する厚生制度の委託が違法となるものではないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張も採用することはできない。
(6)以上のとおり,退会給付及び在会慰労金は,給与条例主義を潜脱する違法な制度であるが,その余の給付事業等は厚生制度として適切かつ公正な範囲を逸脱するものではなく,違法とはいえない。したがって,本件補給金の支出は,退会給付及び在会慰労金の原資とすることを目的とした部分に限り,違法というべきである。

4  争点(2)イ(精算義務の不履行の違法性)について
控訴人は,本件補給金について,互助会が,大東市から,地方公務員法42 条に適合する厚生制度の実施費用として前渡しされたものと解すべきであり, 互助会は,大東市に対し,各年度ごとに,本件補給金のうち,同条に適合する 厚生制度の事業費及び事務費に充てた部分を差し引き,その残額を精算,返金 すべきであったなどと主張する。
しかしながら,本件補給金について,控訴人が主張するような前渡金として 大東市及び大東市水道事業から交付されていたことを認めるに足る証拠はない。
また,前記第2の1や前記第3の3における認定事実に照らすと,大東市及 び大東市水道事業は,互助会の前記のような事業内容を十分に認識しながら, その事業資金に供するために本件補給金を支出したと認められるのであり,互 助会が前記退会給付金等の給付事業に本件補給金を充てたことが,本件補給金 を支出した大東市及び大東市水道事業の意図に反するものとはいえない。
したがって,いずれにしても,本争点に関する控訴人の主張を採用すること はできない。

5  争点(2)ウ(大東市の損失)について
(1)弁論の全趣旨(原審互助会第6準備書面の別紙1)によると,互助会の退会給付(平成16年4月1日改正前の制度もの。((1)),生業資金((2)),退会給付合計((3)),積立金の額((4)),互助会の全支出額((5)),互助会の全支出額のうち積立金を控除した額((6)),そのうち退会給付合計の占める割合((7))は,いずれも原判決添付別紙互助会収支表のとおりと認められ,これによれば,平成6年度から退会給付廃止の前年である平成16年度までの,互助会の支出額(積立金控除後のもの。以下も同様である。)中の退会給付合計の占める割合は,各年度とも概ね70パーセント程度であり,平均は約73パーセントである。そうすると,本件補給金の支出(ただし,上記のとおり,退会給付の廃止直前の平成17年11月分までのもの)のうち概ね70パーセント相当額が退会給付の原資とすることを目的とした違法なものというべきであり,大東市は,互助会に対し,同額の不当利得返還請求権を有するというべきである。
そして,弁論の全趣旨(平成16年度分については前記第2の1(4),平成 17年4月から同年11月までの分は原審互助会第6準備書面 の別紙2)によれば,大東市が平成16年4月1日から退会給付金の制度が廃止される平 成17年11月30日までに互助会に支出した本件補給金は,市長部局に関し,平成16年度が1億0078万3783円,平成17年4月から同年1 1月分が3847万2248円,水道事業分に関し,平成16年度が477 万1763円,平成17年4月から同年11月が183万7183円と認められるから,退会給付金に関し,大東市が互助会に対して有する不当利得返 還請求権の額は,上記各金額の70パーセント相当額,すなわち市長部局に 閲し,平成16年度が7054万8648円(1円未満切り捨て。以下も同様である。),平成17年4月から同年11月分が2693万0573円,水道事業分に関し,平成16年度が334万0234円,平成17年4月から同年11月が128万6028円となる。
(2)また,互助会の支出のうち,大東市を含む地方自治体職員に対する在会慰労金の支出額については,これを直接認定し得る証拠はないものの,弁論の全趣旨(原審互助会第7準備書面 の別紙2の2ないし12)によると,大東市及び大東市水道事業の職員に対する平成6年度から平成16年度までの退会給付金及び在会慰労金の給付額は別 紙4の互助会給付一覧表のとおりであるところ,両会計合計額によると,在会慰労金の給付額は退会給付金の2.7パーセント程度であり,大東市以外の他の地方自治体の職員に関しても概ね同程度と推認されるから,互助会の支出額中の在会慰労金の占める割合は少なくとも1.8パーセントを下らないというべきである(70パーセント×2・7パーセント。なお,平成17年12月から平成18年3月分についても,それまでと補給金の支出額に大きな変動はない(原審互助会第6準備書面 の別紙2参照)から,互助会の支出額中の在会慰労金の占める割合は前同様に考えられる。)。
そうすると,前記第2の1(4)ア,イのとおり,大東市の補給金の支出額は,市長部局について平成16年度が1億0078万3783円,平成17年度が5649万8145円であり,水道事業について平成16年度が477万 1763円,平成17年度が258万7095円であるから,在会慰労金に関し,大東市が互助会に対して有する不当利得返還請求権の額は,上記金額の各1・8パーセントに当たる,市長部局について平成16年度が181万4108円,平成17年度が101万6966円,水道事業について平成16年度が8万5891円,平成17年度が4万6567円となる。
(3)したがって,大東市が互助会に対して不当利得返還請求をなし得る合計額は,市長部局につき,平成16年度分7236万2756円と平成17年度分2794万7539円の合計1億0031万0295円,水道事業について,平成16年度分342万6125円,平成17年度分133万2595円の合計475万8720円となる。なお,上記不当利得返還債務は,履行の請求を受けた日の翌日から遅滞に陥るところ,当審の口頭弁論終結時点で被控訴人らが互助会に対し上記不当利得返還債務の履行を請求した事実はこれを認めるに足りないから,互助会に遅延損害金支払義務が生じているとは認め難い。

6  争点(2)ェ(弁済及び弁済充当)について
(1)証拠(各項に掲記)及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。
ア 互助会は,平成17年11月25日,同月30日付けの退会者への退会給付の支給をもって退会給付を廃止し,その結果 ,既に受領した補給金の使い道がなくなり,不要となったため,互助会の流動資産総額約700億円のうち100億円を清算金として市町村等に返還することとした。(丙1,5の1ないし4,丙6の1ないし5)  イ 互助会は,平成17年12月6日,大東市に1億8340万8241円,大東市水道事業に862万0169円をそれぞれ返還した。(丙7の1・2,丙8の1・2)
ウ 大東市は,上記互助会から返還を受けた金員を,一般会計・諸収入・雑入(人事)として平成17年12月15日付で収入済みとして会計処理し,各会計及び関係諸機関への内部的な配分に当たっては,平成14年度ないし平成16年度における大東市の互助会への補給金総合計に対する各会計及び団体等の負担割合に応じ,返還した。その具体的内訳は別 紙5のとおりである。 大東市水道事業は,上記互助会から返還を受けた金員を,雑収入として平成17年12月15日付で収入済みとして会計処理した。
(2)ア 大東市及び大東市水道事業と互助会は,平成17年12月15日,同年 11月分以前の互助会に対する補給金につき不当利得返還債務が生じる場合には,互助会が同年12月15日付で返還した金員を,同年11月分以前の補給金から過去に遡って生じる不当利得返還債務に順次充当する旨合意した旨主張する。しかしながら,前記(1)認定のとおり,前記(1)イの金員は,退会給付制度廃止に伴う清算金として返還されたものであるところ,その趣旨は,前記のとおり退会給付金の給付は互助会が受領した禰給金の使途として大きな割合を占めており,退会給付制度が廃止された以上,既に受領した補給金の使い道がなくなり,不要となったため,互助会が保持すべき法律上の原因を欠くことになりこれを不当利得として清算する必要が生じたことによるものであるから,上記清算金の返還をもって直ちに互助会の大東市に対する不当利得返還債務に弁済充当する旨の合意があったと見ることはできない。そして,その他,被控訴人ら及び互助会が主張する時期に,大東市及び大東市水道事業と互助会との間で,その主張するような充当合意を行ったことを認めるに足る証拠はない。なお,互助会は,互助会の理事会における担当者の説明(丙5の1ないし4)や,各市町村長他が構成員である互助会の評議員会における評議員の発言(丙6の1ないし5)が,返還金を受領する地方公共団体等の側がそのことを理解し,了解していた証左である旨指摘するが,未だ上記認定判断を左右するものではない。
イ また,被控訴人ら及び互助会は,大東市及び大東市水道事業と互助会が原審第5回口頭弁論期日において,平成17年12月15日付けの充当合意と同様の条件及び内容で,清算金(返還金)を不当利得返還債務に充当することについて合意したと主張するが,本件は,控訴人と被控訴人市長及び被控訴人水道管理者との間の訴訟であり,大東市及び大東市水道事業は訴訟当事者ではないから,原審口頭弁論期日において,被控訴人ら訴訟代理人と互助会訴訟代理人との間でその主張するような内容の合意を行った(弁論の全趣旨により認められる。)としても,その効力を生じるものではない。
ウ さらに,被控訴人ら及び互助会は,大東市及び大東市水道事業と互助会 が平成20年6月20日をもって,平成17年12月15日付けの充当合意と同様の条件及び内容で,清算金(返還金)を不当利得返還債務に充当 することについて合意したと主張し,これを裏付ける証拠(丙17,18 の各1・2)を提出する。しかしながら,大東市及び大東市水道事業に対 する上記清算金の返還は,前記(1)認定のとおり,互助会が受領した補給金 の使途として退会給付金の給付が大きな割合を占めていたところ,退会給 付制度が廃止され,既に受領した補給金の使い道がなくなり,これを保有 する理由がなくなったためになされたものであって,本件請求に係る既に 実施された退会給付金等に関する清算のためになされたものと見ることは できない。また,大東市及び大東市水道事業は,互助会から上記清算金を 受領し,その金員を雑収入等として,平成17年12月15日付で会計処 理を終了しており,その時点で既に上記清算金の返還に関する債権債務関 係は消滅しているものというべきである。そして,それから2年6か月以 上経過した後に行われた上記弁済充当合意については,その効力を有するものと認めることはできない。
エ したがって,本争点に関する被控訴人ら及び互助会の主張は,いずれも採用することができない。

7 その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,原審及び当審で提出された全証拠を改めて精査しても,当審の認定,判断を覆すほどのものはない。

第4 結論

以上の次第で,控訴人の本件請求のうち,補給金の支払の差止め請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下し,互助会に不当利得金返還請求をするよう求める部分は,被控訴人市長に対して1億0031万0295円を,被控訴人水道管理者に対して475万8720円を,それぞれ大東市に支払うよう求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから,これを棄却すべきである。よって,これと異なる原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。

(平成20年7月29日口頭弁論終結)
大阪高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官  大  谷  正  治
裁判官  西  井  和  徒
裁判官高田泰治は転補に付き署名押印することができない。
裁判長裁判官  大  谷  正  治

 

別紙1の1 大東市給付金支出額及び件数 平成16年度
(大阪府市町村職員互助会作成)

種 別 大束市 大東市水道
件数 給付額(円) 件数 給付額(円)
入院費補助金 110 3,971,000 16 674,000
介護補助金 1 30,000 1 30,000
人間ドック補助 274 2,815,000 3 24,000
休業補助金 4 1,134,010 0 0
障害見舞金 0 0 0 0
災書見舞金 0 0 0 0
死亡弔慰金 1 500,000 0 0
親族死亡弔慰金 58 2,550,000 0 0
結婚準備金 25 2,350,000 0 0
出産準備金 26 1,300,000 2 100,000
入学祝金 106 3,860,000 5 210,000
進学祝金 2 120,000 0 0
成年祝金 46 2,760,000 2 120,000
在金慰労金 58 5,050,000 1 100,000
綽婚記念税金 28 1,340,000 2 80,000
小   計 739 27,780,010 32 1,338,000
退会餞別金 9 506,576 0 0
退会給付金 46 199,234,044 1 5,494,756
生業資金 35 45,572,160 1 3,081,663
生業資金付加金 35 23,280,413 1 1,663,920
小   計 125 268,593,193 3 10,240,339
合   計 864 296,373,203 35 11,578,339

 

別紙1の2 大東市給付金支出額及び件数 平成17年度
大阪府市町村職員互助会作成

 別 大東市 大東市水道
件数 給付額(円) 件数 給付額(円)
入院費補助金 106 3,558,000 10 442,000
介護補助金 4 120,000 0 0
人間ドック補助金 357 3,075,000 1 9,000
休業補助金 14 890,381 0 0
障害見舞金 2 800,000 0 0
災害見義金 0 0 0 0
死亡弔慰金 2 1,250,000 0 0
親族死亡弔慰金 80 3,620,000 4 300,000
結婚準備金 17 1,600,000 0 0
出産準備金 34 1,700,000 1 50,000
入学祝金 121 4,340,000 7 190,000
進学祝金 3 180,000 0 0
成年祝金 47 2,820,000 1 60,000
在会慰労金 104 6,130,000 6 370,000
結婚記念祝金 30 1,220,000 1 50,000
小   計 921 31,303,381 31 1,471,000
退会餞別金 129 13,300,068 9 1,097,321
退会給付金 126 591,587,676 9 44,805,756
生業資金 112 151,296,533 9 13,469,327
生業資金付加金 112 63,544,517 9 5,657,116
小   針 479 819,728,794 36 65,029,520
合   計 1,400 851,032,175 67 66,500,520

 

別紙2 退会給付率表

[勝訴]大東市互助会 - 大東市互助会控訴 - 平成20年 [高裁] (行コ) 第26号 別紙2 退会給付率表

 

別紙3 退会時期

[勝訴]大東市互助会 - 大東市互助会控訴 - 平成20年 [高裁] (行コ) 第26号 別紙3 退会時期

 

別紙4 互助会給付一覧表

[勝訴]大東市互助会 - 大東市互助会控訴 - 平成20年 [高裁] (行コ) 第26号 別紙4 互助会給付一覧表

 

別紙5 H14~16における互助会への補給金

会 計 H14~16
における
互助会への
補給金
構成比 雑入金額
(配分)
一般会計 319,888,856 91.796 168,361,429
下水道事業特別会計 10,891,562 3.126 5,733,342
諸福中壇内線整備事業特別会書 505,080 0.145 265,942
国民健康保険特別会計 6,816,026 1.956 3,587,465
老人保健特別会計 779,904 0.224 410,834
介護保険特別会計 4,395,713 1.261 2,312,778
社会福祉法人
大東市社会福祉協議
(プロパー)
2,191,922 0.629 1,153,638
社会福祉法人
大東市社会福祉協議会
(派遣)
264,576 0.076 139,390
東大阪市・大東市清掃センター 880,224 0.253 464,023
東大阪都市清掃施設組合 381,600 0.11 201,749
河北養護老人ホーム組合 249,312 0.072 132,054
財団法人大阪府市町村振興協会 70,728 0.02 36,682
大東市職員労働組合 11,200 0.003 5,502
大東市土地開発公社 1,144,800 0.329 603,413
合 計 348,471,503 100 183,408,241

 

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